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退職勧奨やパワハラが違法とされた事例(東京地裁平成30年7月10日判決)

2024/02/15

はじめに

近年、パワーハラスメント(いわゆる「パワハラ」)を受けたとして、労働者(従業員や社員)から、パワハラを行った個人や、会社に対して損害賠償請求をする事案が増加傾向にあります。

東京地裁平成30年7月10日判決は、労働者Xが、不当な言動による退職の強要を受けてうつ病になった等として会社に損害賠償請求をし、これが認められた事例になります(本事例は、他の争点もありますが、本コラムでは、上記の損害賠償の点について、解説いたします)。

退職勧奨の限界を超えた事例、パワハラの一つの事例として、ご紹介いたします。
 

事 例

1 労働者Xの主張

・平成20年2月、会社の企画室長であった労働者Xに対して、その上司Cが、約30分にわたり「企画室長失格で、企画室業務にも失格だ。退職しろ。」と繰り返し退職を迫った。
・同年3月、会社代表者が、労働者Xと面談した際、約2時間40分にわたり、Xが企画室長として不適当である旨述べて、退職するよう述べた。
・同月、労働者Xが退職勧奨に応じなかったことから、Xを、4月1日付で東京支社へ転勤させる業務命令をした。
・同年4月以降、会社は、労働者Xの能力給や役職手当を一方的に減額した。
・平成21年11月、会社のD事業部長は、東京支社の一室において、労働者Xに対して、1時間以上にわたり、退職を勧奨した。
・平成22年1月、会社代表者は、労働者Xに対して、2時間以上にわたり、「給料泥棒」「役立たず」「無能な人間」「会社の寄生虫」などと述べて、退職を勧奨した。
・同年4月、会社は、労働者Xの基準給、裁量労働手当、能力給、技能給を一方的に減額した。
・平成25年、会社のE事業部長は、Xを呼びつけ、他の社員のいる前で、Xが代休を2日取得したことにつき、「仕事はいつするんだ」と怒鳴り、手に持っていたファイルを投げつけた。
・同年12月、会社代表者及びE事業部長は、約1時間10分にわたり、繰り返し退職を勧奨し、会社代表者は、この際「会社の寄生虫」「無能な人間」「役立たず」などと発言し、また、「営業が出来ないのだから京都で運転手でもやるか」「テレアポ専業」と述べて、労働者Xが退職勧奨に応じない場合には、転勤や配置転換を命じることを示唆した。
・同月、E事業部長は、労働者Xに対して、支社長室の扉を開けたまま大声で、約30分にわたり、「無能」「君が無能なことは皆が知っている」と述べ、退職勧奨に応じないXに対し、「京都本社で車両整備か東京支社でテレアポ専業のどちらかを選べ」と述べた。

以上の結果、労働者Xは、うつ病と診断され、平成26年3月から平成27年8月までの間、会社に勤務することができなくなり、次の合計約539万円の損害を被った、として、会社へ損害賠償を求めました。
・休業損害 約430万円
・治療費等 約9万円
・慰謝料  100万円

2 会社の主張

以上の労働者Xからの主張に対して、会社は、Xの業務態度が不十分であることを指摘し、転勤などを命じたことは認めましたが、Xが主張するような暴言等は存在しないと主張しました。
 

裁判所の判断(判決)

裁判所は、諸事情から、会社代表者らが、「給料泥棒」「役立たず」「無能な人間」「会社の寄生虫」「仕事はいつするんだ」「君が無能なことは皆が知っている」等の言動を行ったことが推認できると判断しました。

そして、会社代表者らの言動は、Xの人格的尊厳を傷つけ、人格権を違法に侵害するものと認められる。会社代表者らの繰り返し退職を勧告し、一方的に賃金を減額した行為は、Xの労働環境を不当に害するものと認められ、会社は、Xの労働環境に配慮する注意義務を怠ったと認められる、と判断し、結論として、会社に約343万円の損害賠償を命じました。
 

考 察

様々な理由で、会社・企業が労働者(社員/従業員)に対して退職勧奨(退職を勧めること)を行うことがありますが、退職勧奨は、あくまで、労働者の任意の退職(辞職)や会社との合意退職を勧めるものですので、任意の意思を尊重する態様で行うことを要します。

会社側による退職勧奨が適法か違法かについては、労働者が自発的な退職意思を形成するために社会通念上相当と認められる範囲を超えて、当該労働者に対して不当な心理的威迫を加えたり、その名誉感情を不当に害する言辞を用いたりする退職勧奨は不法行為となるとされています(東京地裁平成23年12月28日判決)。

本件は、発言の内容、拘束の時間の長さ、叱責の状況(他の社員の面前等)、退職勧奨の執拗さ(回数など)等から、社会通念上相当と認められる範囲を超えた退職勧奨と認められるでしょう。

また、パワハラについては、近年、労働施策総合推進法において、会社にパワハラを防止する措置を講じる義務が課され、国が指針においてパワハラを類型化する等されており、企業は、パワハラを経営リスクと捉えて、その防止や早期発見、迅速な対応に努めるべき状況となっています。

本件判決では、会社が労働者Xの労働環境に配慮する注意義務を怠ったと認定され、損害賠償責任が認められています。

会社側からすれば、それなりの言い分(Xの勤務態度不良や能力不足など)があるものと思われますが、本件の言動は、注意や指導としては行き過ぎであり、違法との認定を免れない事例と考えます。

もし、その労働者に、著しい勤務態度不良やミスがあるのであれば、本件事例のような人格否定するような言動ではなく、その都度、会社として正式に懲戒処分を行うべきだったと考えています。

当事務所は、会社・企業側の労働問題を専門的に取り扱っている弁護士事務所ですので、例えば、勤務態度が極度に悪い社員にどのように対応していけばよいか、というご相談もお受けしています。

(取扱業務「ハラスメントの問題」の記事は、コチラ)

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