はじめに
かつては、一つの企業に勤めたら他の企業では働かない、という考えが浸透していましたが、ここ数年、「副業解禁」といった言葉を耳にするようになり、副業・兼業を認める企業が増える傾向にあります。
このような流れの中、今までは副業・兼業を認めていなかった企業も、これを認めたり、場合によっては推奨したりするようになってきています。
本記事では、
副業・兼業に関する法的なポイントをお伝えしていきます。
現在は副業・兼業を認めていない場合や、今後は副業・兼業を認めようとする場合などに、参考にしていただければと思います。
副業・兼業に関する法的ポイント
① 服務との関係
企業によって就業規則は様々ですが、従業員には職務に専念してほしいとの想いから、「副業・兼業は認めない」「許可を得ない限り、副業・兼業は認められない」と定めていることも少なくありません。
その場合は、許されない副業・兼業をした時は、その従業員に対して懲戒処分(解雇を含む)をすることができる、と定めていることも多いと思われます。
(過去の厚生労働省によるモデル就業規則にも、このような規定が含まれていました。)
ですが、原則論からしますと、従業員が企業の指揮命令に服するのは勤務時間の間だけで、その他の時間を企業が拘束することはできないわけでして、勤務時間外は従業員の自由な時間です。
従業員の自由な時間に、副業・兼業をして他の企業で働いていても、もともと自由な時間を使っているだけですから、本来は企業が制限又は禁止したりはできないはずです。
ですので、副業・兼業したことだけを理由として、その従業員に対して懲戒処分をすることは難しいといえます。
懲戒処分ができるようなケースは、例えば、副業・兼業での勤務時間が長く、心身に負荷がかかっており、本業での労務提供に支障が生じている場合など、企業に悪影響が出ている、又は出る可能性が高い場合と考えられます。
厚生労働省のモデル就業規則は令和5年7月版が公開されていまして、企業が副業・兼業を禁止又は制限できる例が示されていますので、参考にしてみてください。
② 労働時間との関係(特に残業代)
従業員の労働時間については、1か月100時間未満、複数月の平均80時間以内という制限が労基法に定められています(いわゆる過労死ライン)。
また、基本的に、1日に8時間、1週間に40時間を超えて勤務した場合、通常の給与に割増分を加算して支払う必要があります。
このように、従業員の労働時間は様々な点で関係があるのですが、副業・兼業をしている場合はどのように扱われるのか、という問題があります。
すなわち、各企業で個別に計算するのか、それとも全ての企業で通算するのか、ということです。
労基法38条1項では「事業場を異にする場合」には労働時間を通算するとされていまして、行政解釈では、事業主(雇主)が異なる場合も含むとされています(昭和23年5月14日基発第769号)。
この行政解釈によると、本業の企業での労働時間と、副業・兼業の企業での労働時間とが通算されることになりますが、それは決して単純なことではありません。
この理論ですと、2つ以上の企業が、それぞれの労働時間を提供し合わなければ通算の労働時間が分かりませんが、全く交流がない企業同士が円滑に連絡を取り合えるかという問題や、現場の事務作業が増えてしまう(担当者の業務負荷が増えてしまう)という問題が生じます。
なお、1か月45時間制限など、36協定に関することは各事業者で個別に判断するとされています。
また、労働時間を通算するとなると、「割増賃金(残業代)をどの企業が負担するのか」という重大な検討課題が生まれます。
二つ以上の事業主に雇われて勤務しているとしたら、基本的に1日8時間を超える労働時間になると考えられますし、1週間40時間を超える、又は休日に勤務することは少なくないでしょう。
このように、従業員が副業・兼業をした場合の大多数において、法的には残業代の支払を考えなくてはならないのですが、どの企業がその負担をすべきなのでしょうか。
一つの企業がまとめて負担するのでしょうか。または、二つ以上の企業が、平等に(又はそれぞれの労働時間で案分して)負担するのでしょうか。
厚生労働省が発行しているガイドラインでは、労働契約締結の先後で決めるとされていまして、後に雇用した企業が残業代を負担するとされています。
例えば、1日における労働時間が、先に雇用した企業Aでは5時間で、後に雇用した企業Bでは4時間である場合、通算すると労働時間は9時間となり、1日8時間を超える1時間分について残業代を支払わなくてはなりません。
この場合、後に雇用した企業Bが、その1時間分の全額の支払をしなくてはならない、とされています。
しかし、現実には、ガイドラインどおりに処理できない事態が想定されます。
上の例でいう企業Bからすると、その従業員を雇った場合、残業代の支払が想定され、人件費の負担が大きくなりますから、その従業員の採用には躊躇するでしょう。
他にも、他で雇われているとシフトを組みにくい等の不都合が生じるため、その事実を正直に告げると採用される可能性が低くなります。
こういった事情から、企業Aで雇われていることを、企業Bに告げない従業員も一定数出てくるのではないか、と予想されます。
そうすると、企業Aに雇われていることを知らずに企業Bが採用し、企業Aと労働時間について連絡を取り合うことはなく、当然ながら残業代も支払っていない、ということはあり得ます。
そして、ある日突然、(元)従業員が企業Bに対して、「割増分の給与を支払え」と請求してくるような事態も想定されます。
または、行政解釈とは違った理論を用いて、従業員が企業Aに対して割増分の給与請求をする事態も考えられます(企業Bよりも企業Aの賃金単価が高い場合、企業Aから割増分の給与を受け取った方が、従業員の利益が大きいため。)。
最終的な裁判所の判断は別として、請求を受けること自体が企業にとっては負担になります。
③ 安全配慮義務との関係
企業は従業員に対して安全配慮義務を負っています。
そして、長時間労働になっている従業員に対しては、面接指導やストレスチェック等の健康確保措置を実施することが義務になっています。
副業・兼業で二つ以上の企業に雇われていれば、トータルの労働時間は長時間になりがちでして、継続していると心身に不調をきたす従業員が現れることでしょう。
このような(トータルでの)長時間労働を企業が把握した場合、どのような対処が求められるのでしょうか。
厚生労働省のガイドラインによれば、時間外・休日労働の免除、抑制をするなど、従業員が働き過ぎにならないような措置をすることが推奨されています。
企業の努力としてはこれが限界と思われまして、それを超えて、例えば、副業・兼業先の雇用主に対して労働日数・労働時間を減らすよう働きかけることまでは求められていないと考えられます。
また、従業員が副業・兼業を隠していた場合には、企業にとって予想外の事態といえますので、その場合にまで、企業に健康確保措置が課されているものではないと考えられます。
以上、副業・兼業に関して、企業が知っておいた方がよい法的な注意点をご紹介しました。
もちろん、副業・兼業にはリスクだけではなく、従業員のスキルアップ等のメリットがたくさんありますので、比較しながら検討していただければと思います。
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