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降格に伴う給与減額の裁判例解説(東京地方裁判所平成20年2月29日判決)

2025/09/05

はじめに(東京地方裁判所平成20年2月29日判決)

グループリーダー、係長、課長、部長といった役職を設けている企業は多く、職位が上がるにつれて、役職手当額が増えていくなど給与が増額するようになっていることが大半と思われます。

役職ごとに期待される役割、仕事内容は異なりますので、昇進させたけれどもその役職に見合った仕事ができなくなる従業員も現れることになります。

組織として、その役職に適していない従業員がいる場合には、その役職を解く(多くの場合は降格)ことが業務を円滑に進める上では適切でして、人事権の行使として止むを得ないものです。

役職を解いて降格させた以上、連動して給与を減額することは当然の帰結である、と考える経営者は多いと推測しますが、法的には単純な話ではありません。

東京地方裁判所平成20年2月29日判決は、マネージャー(部長職)まで昇進した従業員を、管理職としての働きに問題があることから降格させましたが、これに加えて大幅な給与減額をしたことが無効と判断された事例です。

なぜ、降格に伴う給与減額が許されないことがあるのか、理解するために参考となる事例としてご紹介します。
 

事 例

Y社はエステティックサロンの経営等の事業を営んでいる株式会社であり、平成17年時点で全国に102店舗のエステティックサロンを直営していた。
Y社には、成績によって昇進・降格になる制度が設けられていた。

平成6年11月1日、XはY社にエステティシャンとして入社した。

そして、平成9年にプロデューサー職に、平成10年ころにスーパーバイザー職に就き、特定の店舗に所属せず、多数の店舗を回って、新規顧客の契約(会員契約)や既入会会員の会員契約継続に主として従事した。

その後、平成12年までには「部長1級」にまで昇進し、平成13年には西日本担当のエリアマネージャー職に就き、主としてスタッフの育成に従事した。

平成16年ころ、Xは部長1級として年収1050万円が支給されていた。

このような業務に従事する中、Xは、一定の営業成績を上げていたが、業務に熱心なあまりか,顧客からの高額な契約獲得のための営業努力の指示などにより,店長やスタッフを強く叱る行為などがあった。

そのことについて、複数の顧客やスタッフらからのY社本部へのクレームとして届くことがあった(店舗スタッフの中には退職を申し出る者もいて、業務の遂行に支障を生じていた。)。

Y社は、平成17年5月以降のXの職位を「部長1級⇒次長1級」と降格させ、年収を「少なくとも1050万円⇒460万円」と減額した。

※その後、Xは解雇され、その有効性も争われていますが、その点は本稿では割愛します。
 

判 決

・総体的にはXの部下への接し方や指導監督の手法に問題があって,各店舗の人員確保なり業務の遂行に支障を生じるあるいは生じかねない事態が生じていたことが推認される。
⇒ 部長1級から次長1級にした本件降格処分にはそれなりの必要性と合理性がある。

・一般的には,使用者の人事権の発動により降格処分が発令されれば,企業の賃金体系が職位の格付けと関連づけられている場合が一般的であり,これに伴い降格後の格付けに対応した賃金支給額に減額されることになっても当該減額が客観的なもので賃金規定等就業規則の一部として労働契約の内容になっているものに従って減額後の賃金が算定されている限りにおいては,一定の合理性のあるものとして肯定できる。

・被告から会社の賃金体系の全体が明らかにされておらず、存在するとされる賃金規定が証拠として提出・開示されていない。給与減額は、結局のところ、Y社の上層部の一存で決められているものと見ざるを得ない。

・直前の年収の4割を超える給与減額は過大に過ぎる。
⇒ 給与減額に合理性が認められない。
 

解 説

経営者から、「従業員の働きが悪いのに、給与を下げられないのはどうしてか」という質問を受けることは少なくありません。

そもそも、従業員を雇うということは、「契約」です。

従業員が労務を提供し、企業が給与を支払う、という内容の労働契約です。
給与を支払うことは契約の内容になっていますので、給与を変えるには原則として双方が合意することが必要で、契約の一方当事者が変えるためには条件があるのです。

予め、「どういった理由で給与を下げることがあるのか」「給与が下がるとしてどの程度なのか」が労働契約の内容になっていれば、これに沿って給与を減額することは可能です。

通常、採用(雇用契約の締結)の際にこのような取り決めをすることはありませんので、定めてあるとすれば就業規則でしょう。

労働契約法に規定されているように、就業規則は内容の合理性や周知といった条件を満たせば、労働契約の内容になります。

本事例では、就業規則の一部である賃金規程を裁判内で示すことができなかった(そもそも作成されていたのか不明)ため、就業規則に従って給与減額を決めたものとは言えない、と判断されています。

つまり、給与減額は、労働契約の内容に従ってされたものではなく、契約の一方当事者である雇主(Y社の上層部)が決めたものとされ、合理性がないとして無効とされてしまったのです。

従業員を降格させて、同時に給与を減額する際は、賃金規程等で役職ごとの給与額(役職手当の額等)が明確になっているか、降格によりどの程度の減額となるのか明確になっているのか、確認されることをお勧めします。

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