はじめに
近年、
セクシャルハラスメント(以下「セクハラ」)に対する問題意識は強まってきています。
職場内でセクハラ被害が発生した場合、企業としてどこまで毅然とした態度を取ってよいのか、判断に迷うことは少なくありません。
「セクハラ被害を放置するな」というのが法の要請である一方、「セクハラをした従業員でも雇用を守れ」というのが法の要請ですので、企業としては板挟みに近い状態になるからです。
横浜地方裁判所令和3年10月28日判決(医療法人社団A事件)は、複数のセクハラ行為を繰り返し、注意指導を受けても改善しなかった従業員への普通解雇が、有効と判断された事例です。
どの程度のセクハラがあった時に、どういった対処をすべきか、検討する場面で参考になる事例としてご紹介します。
事 例(横浜地方裁判所令和3年10月28日判決)
Y法人は複数の診療所を運営している北海道の医療法人。医師を除く職員は看護師、管理栄養士等であり、医師とX以外は全員女性である。
Y法人は、首都圏での診療所の開設のために人材を募集し、Xは業界での経験を有していたため、これをアピールして応募。
平成22年10月、XはY法人に入職し、「次長」の肩書を与えられ、診療所の開設及び運営に関わる付帯業務一般に従事した。
平成23年、新たに開設した診療所で、3名の職員が、Xからセクハラを受けたと申告(手を触れられる、頭を撫でられる等)し、その後に全員が退職した。
Xは「手を触れたことがあったが意図的ではないし、反省している」等とコメント。
平成23年の年末、Y法人の理事長がXに対し、「管理職の立場にあるのだから、意図がなくともセクハラと疑われる行動は控えるように」等と注意、指導した。
その後もY法人はXに対し、職員と昼食をとらないように、職員を「ちゃん」付けで呼ばないように、他の職員が困っているから職場の飲み会を減らすようにといった注意、指導を複数回していた。
平成30年、複数の職員が、Xからセクハラ被害を受けたと申告した。中には泣きながら説明をする者、退職を検討すると述べている者もいた。
(Xは、にやにやしながら混浴で入れるかと発言したり、「俺が抱きたいと思うような女になれ」と発言したり、頬や肩に触れたり、複数のセクハラ行為を繰り返していた。)
理事長らは、Xと面談し、詳細に事情を聴き取った(事実と異なる点があれば反論するように伝えて)。
平成30年11月30日、Y法人はXを普通解雇した。
判 決
・XはY法人において理事長及び事務長に次ぐ管理職として「次長」の肩書を用いて診療所の人事を始めとする現場の実務を統括していたこと
・Xは,平成23年に職員3名がXのセクハラ行為を訴えて退職したことから,Y法人理事長らから注意,指導を受けてきたにもかかわらず,平成29年以降に数名の職員に対してセクハラ行為をしたこと
・その結果、職員ら6名が、Y法人理事長に対しセクハラ行為を申告し,泣きながらその説明をしたり退職を検討したりするに至ったこと
以上からすれば,Xのセクハラ行為は常態化し,職場環境を著しく害したものと認めるのが相当である。
Xは,管理職として,率先して職場環境を改善すべき立場にありながら,平成23年に自らセクハラと受け止められる言動をし,職員からの信頼を失ってその全員が退職するという事態を招いたもので,その後,Y法人理事長らから注意,指導を受け,自己の言動の問題点を認識し,改善する機会はあったにもかかわらず,改善することなく,酒席の場のみならず,業務の指導という名目で診療所内においても,女性職員らが不快,苦痛に感じるセクハラ行為を繰り返したのであるから,Xの行為は,その職責,態様等に照らして著しく不適切なものである。
また、Xは,平成30年に実施した本件ヒアリングの際,平成23年当時と同様に,セクハラの意図はなかったなどという弁明を繰り返し,自己の言動がセクハラに該当して不適切であることについての自覚を欠く姿勢を示していたことからすれば,Xの言動について改善を期待することは困難というべきである。
さらに,Xは、Y法人内では理事長及び事務長に次ぐ管理職の立場にあり,その他の職員は医師,看護師,管理栄養士であることからすると,配置転換等によりXの解雇を回避する措置を講ずることも困難であると認められる。
Y法人が,職員への影響を考慮して,Xに対し厳正な態度で臨んだことはやむを得ないものと認められる。
以上によれば,
本件解雇は,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であると認められるから,解雇権を濫用したものとはいえず,本件解雇は有効である。
※なお、X側から控訴されましたが、東京高裁においても普通解雇は有効と判断されています。
解 説
セクハラ行為をした従業員に対して、普通解雇や懲戒処分をした場合に、従業員がその有効性を争ってくることがあります。
訴訟においては、「その行為がセクハラに該当するか」というよりも、「その行為があったかどうか」から従業員は争ってきます。
セクハラは密室でなされたり、業務の中でなされたりすることが多く、証拠が残っていないことが一般的で、証明することが難しいのです。
今回の事例では、判旨を読む限り、Xからセクハラ被害を受けた職員が勇気を出して法廷に立ち、証人になって数々のセクハラ行為を証言したようです。
現実の事件では、証人になることを二次被害と感じる方も多く、なかなか証言に協力してもらうことができないという悩ましさがあります。
また、本事例では、注意指導に関するY法人の理事長の証言が採用されている点も注目されるところです。
Y法人の理事長はとても具体的で詳細な証言をされたと推測されまして、これが功を奏したと思われます。
この方の記憶力が素晴らしい可能性もありますが、恐らく、問題が起きた時や注意指導の時に、しっかりと記録を残されていて、その記録をもとに記憶を喚起して尋問に臨んだのではないでしょうか。
セクハラ行為の認定がされたら、次は「それがセクハラになるのか」「解雇等になるほど重大なものか」が判断されます。
一般的に、①セクハラの重大さ、頻度、②従業員の職責、③従業員の態度(改善の努力が見られるか)、④配置転換の可否、⑤防御の機会を与えたかどうか等が判断のポイントになってきます。
なお、セクハラ加害者は訴訟になると、多くの場合、「日常会話の延長や酒席でされたものに過ぎない」、「業務上の指導における一つの表現方法だ」、「身体的接触はあるが,性的羞恥心を著しく害するものではない」等という主張を展開しますが、本事例を含む多くの事例では、裁判所に採用されていません。
本事例は、
しっかりと記録を残す、丁寧に注意指導するなど、企業側の適切な対応があり、これが裁判所にも良い印象を与えたと思われます。
地道に、丁寧な対応を続けるには、適切な助言を受けることも大切ですので、顧問弁護士を就けておくことをお勧めします。
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